■コロラドのホッケー

<2000年2月>

special thanks to M

             ●ホッケータウン・デンバー

              コロラド・デンバーでの、アバランチの愛され方は予想以上だっ
             た。季節(2月)のせいもあるかもしれないが、NFL(ブロンコ
             ス)・MLB(ロッキーズ)・NBA(ナゲッツ)と、4大スポー
             ツ全てのチームを持っている街であるにもかかわらず、スポーツ関
             係のグッズのショップで一番品揃えがいいのはアバランチである。
             大リーグコロラド・ロッキーズのホームグラウンド、クアーズ・
             フィールドの見学ツアーに参加したときのことである。誇りを持っ
             て働いている様子がとても好ましい、大柄な女性のガイドが、シ
             ーズンオフで閑散としている球場を案内してくれた。美しいロッカ
             ールームや、プレスルームを見せてくれていた彼女の瞳が輝いたの
             は、私たちの目的がホッケー観戦であり、しかも私の友人がアバラ
             ンチファンだと知ったときだった。
             「えっ、アバランチの誰のファンなの?」
             友人が「(キャプテンの)ジョー・サキックです」と答えると
             「あーら、(DFの)アダム・フットも可愛いわよ」と嬉しそうに
             主張した。
              前日、アバランチは、久々に復帰した名GK・ハシェックを擁す
             るバッファロー・セイバースに完封負けを喫していた。エレベータ
             ーで乗り合わせた好々爺という風情の同僚に、彼女が
             「この子たち、昨日ホッケー見たんですって」
             と言うと、彼はとたんに苦虫を噛み潰したような顔になって首を振
             った。
             「昨日のアバランチは全く駄目だった。本当によくなかったよ」
             実は私は、アバランチの宿敵レッドウィングスの主将、スティー
             ブ・アイザーマンを見にきたんです、などとは、口が裂けても言え
             なかった。
              ペプシセンターのファンも熱かった。若手スター選手のフォース
             バーグのジャージを着ている少年が多いのに対し、キャプテン・サ
             キックのジャージを着ているファンは、年期が入っている印象があ
             る。客席から「ジョー!」と大音量で叫ぶおじさんがいるかと思え
             ば、「スーパー・ジョー、スーパー・ジョー」とうわごとのように
             つぶやき続けるちょっとこわい青年もいた。
              うらやましいことに、サキックジャージ着用の友人は、それだけ
             で地元ファンに可愛がられる。私は、はるか彼方の席で、真っ赤な
             レッドウィングスジャージを着用におよび、しかもアイザーマンの
             背番号・19を堂々と背負っている青年に、ひそかに同志の親愛の情
             と、尊敬をこめた視線を送るのが精一杯だった。
              私たちのコロラドでのホッケー観戦の掉尾を飾る黄金カード、対
             デトロイト戦では、アバランチは2ピリの中盤で3点リード、ペプ
             シセンターは湧きに湧いていた。
              ところが、である。
             デトロイトは、俄然追い上げ始めた。2ピリで2点、3ピリの中
             盤で更に1点を入れ、同点に追いついてしまったのだ。
              そして3ピリ16:07、アバランチの若手DFがクリアしきれなか
             ったふわっと浮かしたパスを、デトロイトのシャナハンがゴールに
             叩きこんだ。
              その瞬間、金切り声が聞こえた。
              はっとした。それは自分の声だった。
              それまで押し殺し続けていた声援が、ついに凄い声となって噴出
             してしまったらしかった。
              その後の、周囲の席のアバランチファンの私に対する視線がどう
             なったかは、恐ろしくて顔をあげなかったので分からない。
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