■ニューヨークのホッケー

   〈1998・3・24

フィラデルフィア・フライヤーズ―ニュージャージー・デビルズ

               《コンチネンタル・エアラインズ・アリーナ》〉

           左隣で、フライヤーズのジャージを着込んだ、3人の太った高
          校生ぐらいの男の子たちが、周囲からの野次をものともせずに叫び
          続けている。
           今日のフライヤーズは、NHLを代表する若手のパワーフォワー
          ド、エリック・リンドロスを、脳震盪で欠いている。しかし、フラ
          イヤーズが若い男性に人気があるのは、なんとなく納得出来た。
          「リージョン・オブ・ドゥーム(破滅軍団)」と呼ばれ、破壊的な
          までに力強いチームカラーが、若者たちをひきつけているのだろう。
          それにしてもフライヤーズジャージは、とてもアウェーとは思えな
          いほど多い。
           そのせいもあるのか、アリーナのなかには、こころなしか殺伐と
          した空気が漂っていた。満員の観客が発する熱気が、売店が並ぶ通
          路にまで溢れている。
           ピリオド間の休憩のとき、左隣から視線を感じた。スコアをつけ
          ている東洋人の女の子が珍しいのか。勇気あるフライヤーズファン
          は話しかけてきた。
          「ショッツ・オン・ゴールはいくつ?」
          面食らって、拙い英語も咄嗟には出ず、黙って指差した先の数字を、
          彼は覗き込む。
           第2ピリオド終了時でデビルズが1点リード(2―1)。第3ピ
          リオド15分12秒、デビルズのランディ・マッケイがハットトリック
          となるゴールを決め、2点差とした。しかし17分42秒、フライヤー
          ズが、アレクサンダー・デイグルのゴールで、再び1点差に追いつ
          く。
           第3ピリオドが残り5分ほどになると、幼い娘を右に座らせてい
          る、前の席の金髪美人が、しきりに振り返り始めた。私の後ろに座
          っている息子らしき少年二人連れに、「カモン、カモン」と呼びか
          ける。混雑する前に帰ろうというのだ。
           でも、男の子たちは立ち上がらない。それはそうだろう。1点差
          なのだから。
           案の定、見せ場は残っていた。フライヤーズがゴールを決めたよ
          うに見えて、延長か、と左隣のフライヤーズジャージは色めき立っ
          た。しかし、パックを故意に足で蹴っていたということで、判定は
          ノーゴール。隣の巨漢が、がっくりと座り込む。
           結局、デビルズが3―2で、ホームで面目を保った。だが、今も
          印象に残っているのは、左隣のフライヤーズジャージなのだ。
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